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なおと世界一周旅日記   Vol. 79  「アルゼンチン危機の爪痕」 

1/26 (月)    in ブエノスアイレス(アルゼンチン)

いよいよ始まる、世界一周ひとり旅のワクワク中南米編。
日本を発って半年。
アジア、中東、ちょびっとアフリカ、ヨーロッパを経て、
いよいよ後半戦のスタートだ。
真冬のヨーロッパから、真夏の南米に満を持してやって来た。
夏生まれの夏男。夏が俺を呼んでいる。
大至急間違いない。
大きな声で、呼ばれている。

ロンドンからミラノ経由で、計17時間。
日本の真裏に当たるアルゼンチンのブエノス・アイレスに到着。
空港からローカルバスで2時間、セントロに到着した。
空港から街の中心地に出る手段は、国によって様々である。
バス、タクシー、・・・。香港などの新しい空港からは電車が通っている。
貧乏パッカーにとって、タクシーは極上のリッチな乗り物なので、
大抵の場合、ローカルバスということになる。
パレスチナのPLO議長府で会って仲良くなったスイス系ユダヤ人の
老夫婦が日本に来た時の話は笑えた。

「空港から、あんなに時間もお金もかかったのは、 後にも先にも日本だけだ。」
         「え? まさか、成田から東京までタクシーで行ったの?」
「そうだ。200ドル(2万円)  近くかかったぞ。 あれには驚いた・・」
          「まじで? あそこは、千葉だもん。。
     違う州だもん、言ってみれば。」

成田空港、またの名を新東京国際空港。
なんと背伸びをしたウソつきな恐ろしい命名。

35℃のブエノスアイレスの街を歩いていると、大規模なデモ行進に出くわした。
大きな旗を持ち、シュプレヒコールをあげながら、
大勢の人が大通りを練り歩いている。
何に対するデモだろうか。
誰かに後でその内容を確認するために、
とりあえず旗に書いてあるスペイン語をメモ帳に記した。
しかし、デモ行進中でも、俺の髪を見るや否や、
「なんだ、あの東洋人のボブマリーは!!?」
一瞬にして声が止み、周りの連中と俺の髪型を話題にするのであった。

そのデモから離れ、しばらく歩くと、ブエノスのへそ、一番栄えている中心地であるフロリダ通りと、ラバーシェ通りにたどり着き、さらに奥に進むと公園があった。
そこで、ギターを弾きながら歌を歌っているゲイカップルと仲良くなる。
そして、さっきのデモについて尋ねてみた。
何のデモだったのか?
幸い、彼らは少し英語をしゃべることができたので
コミニケーションがスムーズにいった。

「働かせろー」「仕事をよこせー」
それは、失業者とその家族が、政府に対して
雇用を求める内容のデモであるとのことだった。
ブエノスアイレスという街は、発達したかなりの大都市である。
モダンなビルが立ち並び、道路もきれいに整備されているのに、
なんで、そんなに仕事がないのか?
一見、この街は豊かそうに見えるのに。

夜になると、そのデモの意味が露骨に感じられた。
町の中心部から宿に戻る途中に見た光景は、すさまじいものであった。
路上生活者の数の多いこと・・・には、驚ろかされた。
しかも、日本のホームレスのように一人ではなく、家族単位なのだ。
両親に4人の子どもといったような普通の家族。
服なども一見、普通に見える。
昨日、家だけ取られて、そのまま出てきました、といったような印象さえ受ける。
インドのカルカッタに戻ってきたのか?と錯覚してしまう程であった。
しかし、カルカッタのそれとは明らかに違う点が、
その雰囲気を異様なものにしていた。
それは、近代化の進んだ発展しきっている街の
ど真ん中でのワンシーンであることだ。
東京・渋谷のセンター街に、大多数の路上生活家族がいるのだ。

2001年に起きたアルゼンチン危機。
それまで10年間、固定相場制で、1ドル=1ペソと、かなり物価の高い国だったアルゼンチンだが、一時は1ドル=4ペソまで下がり、今は、1ドル=3ペソ。
今泊まっているヴィクトリア・ホテルが、昔は、1500円。
一時、400円、今は、600円で落ち着いたといった具合だ。
政府は税収の落ち込みから、公務員の給与や年金を支払えなくなり、
2002年には失業率が22%と過去最高(不完全雇用を含めれば40%)を記録。
総人口の約半数が貧困状態にあるという。

旅人にとってみると、物価は安い方が嬉しいのだが、あの光景を見ると、
なんとも複雑な心境になってしまう。

そういった背景のもと、子どもたちだって昼間から働きに働く。
靴磨き、段ボール集め、ペットボトル集め・・・。
その中でもユニークなお金稼ぎが、信号を待つ車をターゲットにしたものである。
ブエノスの信号待ちは、世界一楽しいものだろう。
車がビュンビュン通る片側3車線もある大通りで、信号が赤になると、
待ってました、とばかりに止まった車の前に、一斉に子どもたちが飛び出す。
キャンディー、お菓子、ジュース、新聞などの売り子はスタンダード。
宣伝の看板を持って車の前に立ったり、頼まれもしないのに車の窓を勝手に拭き始め、チップをもらおうとする。
その中でも、最も面白かったのが、お手玉ショウである。
2人組で、威勢良く車の前に走り寄り、組体操の初級の業、肩車をする。
そして、3つのお手玉をそれぞれがやり始めるのだが・・・
この下手なこと、下手なこと!!
たちまちお手玉は、地面に落っこち、すかさず組体操を崩し、拾い、もう一度組み直し、お手玉を始め、落とし、崩し、拾い、組み、始め・・・
そして、彼らは赤信号の時間の長さを知っているのだろう。
演技を止め、車に歩み寄り、チップを要求するのだ。
これには笑かしてもらった。
新しい形のエンターテイメントだ。
生きるために人は、できることなら何だってする。
できないことだってするのだ、と。

赤信号にひっかかり、「あー時間がないのに、くそっ!」っと言いながら、
今か今かと青に変わるのを待ち、まだ変わっていないのに、すでにアクセルを
踏み始めちゃっている余裕のない日本のお忙しい方達にも、
ぜひあのショウをやってあげてほしい。
絶対、心に暖かい風を感じるはずだ。

   気温37℃の真夏なり☆なおと


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