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なおと世界一周旅日記  Vol. 53 「危機一髪!大追跡劇!①」

11/23 (日)    in  ケサル・キビール(モロッコ)

タンジェの鉄道駅で、マラケシュ行きの電車を待っていた時のことである。
出発時間までまだ3時間ほどあり、どうしようかなと思っていたところ、
一人の男が俺に英語で話しかけてきた。
警戒をしながらも、少し話をしていると、友達の奥さんが日本人で、
すごく日本に興味があるみたいなことを言ってくる。
「オノ オノ。シンジ オノ」 小野のことも知っているようだ。

俺の旅の話などもすると、それなら俺の町に遊びにこないかと誘ってきた。
マラケシュや、その他の有名な町ばかり見ただけでは、
モロッコを観たことにはならない。
観光客が来ないようなローカルな町で、いろいろな伝統的なものにも触れてこそ、モロッコを深く知ることなのだ
と言う。その考えには納得がいった。
小さい町も見てみたいという気持ちは大きく、その誘いはとても興味深かった。
その男からいささか怪しさも感じるが、お金とパスポート、そして命、
これをしっかり守ってさえいれば大丈夫。
沸き起こった冒険心が目的地を変えた。
マラケシュ行きのチケットを、ケサル・キビール行きに変更し、
その男の町についていく事にした。

その男は、名前をモウといい、モロッコ人。
40歳ほどであろうか。
アメリカ人の奥さんを持ち、アメリカ在住10年目であるという。
今は、イスラム教徒にはとても大事なラマダンの時期で、
家族に会うために戻ってきている。
背丈はやや高め、少し髪は薄く、
格好はリッチでも貧乏でもないようなノーマルなカジュアル。
小さいリュックを背負って、傘を持っている。
英語は堪能で発音もきれいであるし、
まあアメリカに住んでいるからであろうと納得する。
そして、電車に乗り込む。
混んでいるため座れず、デッキでギターをかき鳴らし歌っていた。
1時間半ほどして、電車は、ケサル・キビールに到着した。

深夜3時前。
町は静かで、発展途上国の独特の薄暗いオレンジの街灯は
怪しさを掻き立てていた。
小雨の中、モウの後を歩いていく。
どこに向かってるか、さっぱりわからない。
初めての土地を人の後をついて行った場合、「人任せ感」が無意識に発生してしまい、頭の中の方向感覚や、土地感が全く働こうとせず、何回か小刻みに角を曲がった時点で、もはや駅まで一人では戻れない状態になっていた。
10分ほど、歩いただろうか。
ようやく家の前に着く。
モウがインターホンを押し、中の反応をうかがっている。
俺がモウに、「ここがあんたの家なのか」と尋ねると、
「いや、今日のお前の泊まる場所だ」と言う。
うん?
モウの家じゃない? 俺が泊まる宿? モウの知り合いの宿にか。 俺だけが?
高いんじゃないのか? といってももう、こんな時間で、
どこの町かもわからないところで他の宿を探すことは難しい。
「いくらだ」
「いくらなら払える?」
今日、モロッコに着いたばかりで、まだモロッコ・ディルハム貨幣の
金銭感覚が体になじんでいない。
そういう時に人はぼられやすい。
以前エジプトで会ったモロッコ好きの旅人から聞いた、モロッコの安宿の相場を、必死に思い出そうとした。
「30ディルハムだ。 あんまり高いと泊まれない。」
「30? おおー、それはないぜ。 んー、しょうがない、40でどうだ?」
まあ初めに、30と安めに提示していたので、40(約540円)で手を打った。

チェックインし、部屋までモウはついて来て、
「明日お昼12時に、また来るから」と言い残し、出て行った。
長い移動で体は疲労していたし、頭もぼぉーっとしていた。
しかし、ふと冷静に考えてみると、おかしいことばかりであった。

モウの不審な点
・自分の家族の家に泊めず、俺だけを宿に寝かせた。
・モロッコ人の伝統的な服(ねずみ男みたいな服)を高値で俺に売ろうとした。
・明日、モロッコの歴史や音楽などを説明してくれるのは、
 英語のしゃべれる他の友達と言っていた。→ガイドということか。
・砂漠ツアーにも誘ってくる。
・アメリカからの里帰りだというのに、荷物は小さいリュックに傘だけだ。
・「Not タ・カ・イ」と、値段にまつわる日本語を知っている。
 →今までこうして日本人を連れてきている可能性有り。
・この宿のチェックイン・カードを、モウが書いた。
 →明らかにおかしい。 こりゃー初めてじゃないぞ。

考えれば考えるほど、怪しい匂いがプンプンしてきた。
タンジェの港で、初めて会ったモロッコ人のおっさんの言葉が思い出された。
「モロッコ人は、信じるな!」

この部屋を出ていこうか、とも考えたが、ここがどこだかわからない。
まあ命に関わるような雰囲気ではない。
金さえ払わなければいいのだ。
緊張感とスリルと不安が交錯する中、寝入った。

朝、起きて、しばらくすると、モウが友達のイスマイルを連れて部屋に入って来た。今日一日の予定を説明し始める。
予想していた通り、ガイドであった。
お金のことは、ビシっと初めに言っておかなければならない。

「おもしろそうだが、お金は払わんぞ。そんな金はない」
「金? 誰がそんなもの欲しいといったんだ?
 俺は金なら持ってるぜ。ほらほら(財布の中の札束を見せながら)
 アメリカに住んでるんだぜ!」 と、ガン切れしてきた。

うん?なるほど、そこまで悪い奴じゃないのか。
金が目的じゃないのか。
だまされないために、心のどこかで人を疑ってかからなければならないのは
旅人の常である。
信用したいが、心を完全に許してはならぬ。
この場合、もうお金の話はしっかりつけたので、
ガイドのイスマイル君についていってみようではないか。
モウは、「他にする事があるから、また夜会おう」と言って、消えた。

そして、どこの町かもわからないところの、市内観光が始まった。


      あやしい・・・☆なおと



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