(宮城県石巻市北上町)
岩手県早池峰山修験道に伝わる瑞山流の流れをくむと言われ、大正のはじめに十三浜村(現:石巻市北上町十三浜)に伝承された大室南部神楽は石巻市の無形文化財に指定されています。しかし、津波によって道具は全て流失し、師匠も未だ行方不明のまま。厳しい状況のなか地域の若手が中心となり、体に残された記憶と難を逃れた僅かな記録を頼りに文字通りゼロからのスタート。難航した道具づくりと度重なる練習を経て2013年5月4日には復活祭と称してその舞が披露されました。受け継がれてきた舞と信念を次世代へ引き継ぐため、子供たちと共に稽古に励んでいます。
毎週金曜日の夜19時から約2時間、十三浜の大室にあるプレハブを借りて練習を重ねている保存会のみなさん。浜から離れた場所にある仮設住宅だけでなく、遠く離れた地域にお住まいの方も練習のために集まっています。津波によって甚大な被害を受けた十三浜。海沿いには建物が残っておらず、真っ暗闇の中を車で走り抜けなければなりません。
この日はちょうど、縫い上がった子供用の袴の衣装合わせでした。もちろん、保存会のご家族が子供たちのためにと手縫いで仕上げたものです。初めは恥ずかしがっていましたが、いざ着てみるとまんざらでもない様子の子供たち。それを見ていた大人たちも自然と顔がほころびます。試しに衣装を着けたまま、少しだけ舞ってみることに。子供たちの凛々しい姿にみなさんとても喜んでいました。
長老の太鼓が練習開始の合図。大人と子供、交互に練習をしていきます。最年少は4歳の男の子、そして最年長は76歳。三世代が集まり、こうして大室南部神楽の舞が受け継がれているのです。汗だくになり、息を切らしながら練習を重ねる大人たちの姿を見つめる子供たち。現在4人の子供たちが未来の担い手として練習に参加しています。
練習後、保存会の若手メンバーと打ち合せ。応援させて頂く予定の内容について進捗状況を確認してきました。詳しい内容はまたご報告させて頂きます。
現在、大室南部神楽保存会の下では5人の子供たちが晴れの舞台を目指し、神楽を舞うための基礎練習に励んでいます。ゆくゆくは大人だけではなく子供たちの演目も組み込んでいきたいが、そのための衣装がまだ準備できていないというお話を聞き、衣装を縫うための生地をプレゼントさせて頂くことになりました。とは言え、神楽の衣装に使われる古典的な柄の「唐縮緬」という生地はなかなか手に入りにくく、取り扱いがある呉服屋さんにお願いをして取り寄せて頂くことに。
先日一緒に取りに行って来た生地で衣装作りが始まったと聞き、北上地区にある仮設住宅にお邪魔して来ました。この地域は津波によって甚大な被害を受け、現在でも多くの方々がプレハブでの避難生活を強いられています。子供神楽の衣装は全てこちらにお住いの女性たちによる手作り!ちなみに大人の衣装もたくさんの方々の協力の下、みなさんで仕立てたそうです。とはいえ、みんな素人。まして神楽専用の衣装を縫った経験もなく、見様見まね、試行錯誤しながら制作されています。
毎日少しずつ地域の女性たちによって仕上げられていく衣装。この苦労を知ってか知らずか、子供たちから「早く私のも縫って!」と急かされているのだとか(笑)試作も兼ねて最年少である4歳の男の子の衣装を先に完成させてしまったので、それを見た年上の子たちは早く自分たちの衣装が欲しくて仕方が無いのだと思います。地域で守り継いでいく神楽の衣装に子供たちが憧れを抱いてくれるなんて、とても素敵なことですよね。
衣装を作る上でどうしても端切れが出てしまいます。今は生産量が少なくなって手にすることが少なくなった唐縮緬の生地。みなさんその端切れも無駄にすることなく、眼鏡入れやスマホケースなどの小物に変身させて愛用しているそうです!金属が剥き出しになっている狭いお部屋の壁には、夏にみんなで訪問させて頂いたときの写真が飾られていました。今度お邪魔するときは、この衣装を纏った子供たちと記念撮影出来たらいいなと思います。
きらきらと海も輝く秋晴れとなったこの日、道具を保管するための倉庫を設置しに大室へ!津波によって更地になってしまった十三浜の大室地区。神楽の完全復活に向けてコツコツ道具を揃えはじめたものの、浜には保管できる場所も無く困っているというお話しを聞き、倉庫を贈らせて頂くことになりました。
ここ大室地区だけでなく、更地になってしまった沿岸部はどこも同じような悩みを抱えています。建物がなにひとつ残らず、日々使うものを保管する場所さえ無い状態。その為、簡易の倉庫を設置して凌ごうとする方が多いのか、今回の倉庫を注文した際も設置まで平均1~2ヶ月待ちと言われてしまいました。
当初はお宅の跡地に設置する予定でしたが、漁協の大型テント内に置かせて頂けることになりました!ここであれば電気もあるし、雨風からも守られ更に安心。保存会のみなさんがほくほくの笑顔で見守る中、あっと言う間に組み立てが完了!道具を一時的に保管していた高台のお宅からみんなでお引越しです。
リサイクルショップで買い集めてきたという木箱や桐箪笥に、ひとつひとつ神楽の道具を納めていきます。半日かかってようやくお引越しも完了し、保存会の会長と長老もこの笑顔!神楽の命とも言うべき繊細な道具の数々。こうしてきちんと保管できる場所もでき、完全復活に向けまた一歩前進です!
神楽幕ってご存知ですか?舞台の背面や袖に吊るす幕のことで、神楽の舞台を形成する上でとても重要な存在。その絵柄は実に様々で、この世に二つとして同じものはありません。神話に関するものが多く、海や朝日、夫婦岩などを描くのが一般的。そんな絶対欠かすことのできない神楽幕も津波で全て流されました。震災後に全国から寄付を募り、なんとか一枚は新しく作ったものの、これから完全復活を目指すにあたりせめてもう一枚は神楽幕があったら…ということで、新たに神楽幕を贈らせて頂くことになりました。
今回の神楽幕を手掛けてくださったのは、岩手県にある京屋染物店さん。絵柄も決まり、ついに制作に入るということで、年が明けの1月11日に保存会の子供たちと共に工房を訪ねました。大正八年創業ということで歴史ある佇まいを想像していたのですが、なんともお洒落でハイカラな工房で驚き!中に入ると、古い資料や染め型などがぎっしり。ありとあらゆる注文に応えるため、多種多様な生地もスタンバイされていました。
最初に見せて頂いたのが、生地をピンと張るためベタベタしている「手捺染(てなっせん)」の作業台。染め型を使用して染料を乗せていく染色技法で、反物から半纏や手拭いなど様々な製品が生まれます。乾燥させた後は神棚の下にある大きな窯に入れて高温で色を固着させ、余分な染料を水で洗い流したら再び乾燥。
最後は整反機と呼ばれる巨大なアイロンに染め上った生地を通して反物が完成。京屋さんは染めだけでなく縫製まで手掛けており、ここから製品化する工程に入ります。こちらでは「藍染」も行っており、東京に藍染の修行に出ていた工場長自ら、釜に浸けた白い布が藍色に変色する様を見せてくださいました。なんだか理科の実験を見ているよう(笑)工房の片隅にはたくさんの染料が。染物屋にとって色の調合は宝。色を受け継ぎ、色を育む大切な場所です。
車で少し移動して、神楽幕を染めて頂く「引染(ひきぞめ)」の工房へ。刷毛を使って一枚一枚手作業で描く技法であるため日数は要しますが、色に深みがあり、ぼかしがきれいに表現できるのが特徴です。原画を元に輪郭を起こした段階なので、生地はまだ真っ白。原画に描かれた鳥居と、実際の大きさに引き伸ばされた鳥居を比べてみると、その差にビックリ。大迫力の神楽幕が完成しそうな予感。お休みのところ、子供たちの見学を受け入れて頂きありがとうございました!
約二か月間かけて描いていく様を京屋染物店さんが撮影し、送ってくださいました。原画と照らし合わせながら、薄い色から順に差していき、だんだんと濃い色へ。平坦だった布に、ゴツゴツとした岩が浮かび上がっていきます。引染は全て一発勝負。ミスがあったら一から全てやり直しになることもあり、他に比べて高い集中力と時間を要する技法です。
神楽幕は大型なので、上下二枚に分けて染色。最後にふたつを縫い合わせて一枚の絵を完成させます。「他で断られた仕事が最終的にうちに来るんです(笑)」とおっしゃる通り、仕事の大きさ、難しさにとらわれず、お客様の想いに応えることを大切にされている京屋染物店のみなさん。さぞ熟練した職人集団なのかと思いきや、その平均年齢はなんと35歳!伝統を受け継ぎながら新しいことに挑戦する姿は、大室南部神楽保存会のみなさんにも通じるところがあります。
同じ被災地である岩手県から、宮城県に神楽幕が到着!偶然にも週に一回開いている稽古の直前に届いたので、正にできたてホヤホヤをご披露することができました。さっそく新しい幕を背に練習開始。今年もGWの5月4日にお祭りを開催することが決定しております!昨年の復活祭よりも更にパワーアップした充実の内容になる予定ですので、みなさま是非お越しください。大室でお待ちしております。
保存会の方々よりお手紙をお預かりしました。今年も5月4日に開催が決まったお祭りを始め、今後の活動に対する意気込み、そして「ちょきんばこ」を通して応援してくださった皆さんへの感謝の気持ち、ご覧ください。